2009年12月15日火曜日

2009年秋〜冬 執筆原稿について

以下の原稿は掲載元メディアが発行されたのち、しばらくの間をおいて公開予定です


原稿執筆時期 メディア名

2009年11月 新美術新聞 2009年12月11・21日合併号 7面
 2009年の九州アート状況を振り返る
 作り手の交流が新しい活動を作り出す

*新美術新聞の公式サイト(記事はありません)
http://art-news.co.jp/shinbun.html


2009年12月 ARTing No. 3 ※2010年1月発行予定


2009年12月 西日本新聞 土曜エッセー ※2009年12月掲載予定

西日本新聞 土曜エッセー 2009年12月

2010.01.06公開

2009.12.19 西日本新聞 朝刊11面 土曜エッセイとして掲載されたテキストの元原稿です。
紙面は若干校正が入っております。


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『ねこびリターンズ』
 福岡市中央区大名の、ジョーキュー醤油さんの斜め前に「紺屋2023」という再生アパートがあります。ここの3階の一番奥が、わたしが運営する<オフィス兼資料倉庫兼会合スペース>の「アート・ベース88」(以下88)です。この88で年明けに「ねこびリターンズ」という展覧会をおこないます。
 寅年にひっかけた、ねこやその他いろんな動物ネタの展覧会です。でもこれは、猫好きさんが猫好きさんのためにやる展覧会ではないのです。だいいちわたしは、いわゆる猫マニアではありません。実は2007年に、博多区の冷泉荘でも「ねこび」をしました。誰でも参加していいですよ、という<無審査公募(アンデパンダン)>というスタイルです。今回も、このアンデパンダン形式で実施します。
 ふだん、アートプロジェクトや展覧会の企画をしていると、時代や思想を意識し、現代社会の問題点などを鋭く切り裂く、そんなテーマが求められ、作家もディレクターもストレスが強くなるときがあります。そんななかで、たまには<描きたいように描く>展覧会があってもいいのじゃないかと思ったのです。
 同時に、専門家的なアートの世界では鼻で笑われるような<日常>的なこと、<思想がない><オンナコドモがすること>といわれることを題材にしたかったのです。最先端を目指すのは面白くワクワクすることですが、いっぽうでなぜ「あんなのはつまらない」と決めつけてしまえるのか、そういう疑問がありました。
 あと、アンデパンダンの面白いところは「知らなかった作家に出会う」というところです。ギャラリーや知り合いの作家から紹介される以外に、ひょんなところから新人作家が登場してきたりします。
 さらに言えば、この展覧会では、なるだけ作品を売買する、ということも狙っています。福岡では地元作家の作品が売れることは極めて稀ですし、美術作品を買うという習慣もあまり一般的ではありません。しかし作家や企画者自身が自活してゆくためには、直接作品を売るという手段が最も分かりやすいのです。猫など動物を題材にしたものであれば、比較的実現しやすいかと考えました。
 さて、こういった思惑を秘めた「ねこびリターンズ」は1月8日から始まります(1月31日まで、火水木休み、14時から19時、入場無料)。会場には、来場者が猫のようにゴロゴロできるようコタツを用意するつもりです。トークイベントなども予定しています。2009年12月現在、約20組の作家が参加表明しており、そのなかには台湾からの作家も含まれています。<ねこ>というキーワードで繋がるものは、予想以上に多くて驚いています。
 「ねこび」自体は小さな企画です。先に書いたように大それたことをテーマにしているわけではありません。ただ、ここには「疑問に思ったことをきっかけにプロジェクトを作ってみる」というコンセプトがあります。アートには、そういう「ちょっと違う見方」が含まれていることが重要なのではないかと思っています。「アート・ベース88」では、<アートの隙間産業>的なイベントを時々仕掛けてゆきたいと思っています。
(2009.12.16 宮本初音)18:11保存

2009年11月25日水曜日

ARTing No. 3 原稿 ねこびリターンズ

ARTing 原稿 2009.11.16


展覧会名称:「ねこびリターンズ」
会期:平成22年(2010年)1月8日(金)〜31日(日) 金土日月のみ
 14時〜19時 ※火水木休み
主催:オハツ企画
会場:ART BASE 88(アート・ベース88)
 〒810-0041 福岡市中央区大名1-14-28 第1松村ビル 紺屋2023 #306
 電話fax 092-986-4888
 HP http://ohazkikaku.blogspot.com/

企画者によるメッセージ文
 「ねこびリターンズ」は、2007年春に冷泉荘で開催された「ねこび」の第2回展で、寅年に引っかけ2010年年頭に開催します。これはオハツ企画が主催する無審査公募(アンデパンダン)企画展で、ねこに限らず動物ネタ全般をテーマにします。
 そもそも無審査公募を始めたのは、(1)アーティストが自分の描きたいように描く展覧会がしてみたかった。(2)コンテンポラリーアートではメジャーではないテーマにしたかった。(3)見たことない作家に出会う場を作りたかった。そしてもうひとつ、(4)作品を売買し、作家を直接支援する場にしたかった。ということなのです。
 今回もおなじみ、ゆるめの会場構成予定〜コタツに入って作品鑑賞しながら、ねこ関連本などをぱらぱら眺め、ちょっとひといき休みましょう、でも実は次の手を虎視眈々と…、そんな感じで計画中です。(最新情報はブログからどうぞ)
 ※ちなみに私は猫マニアではありません。

宮本 初音(みやもと・はつね):ART BASE 88/オハツ企画代表

★参考写真
「ねこび」会場風景 2007年 冷泉荘 A32 アート・アパート88にて

2009年11月24日火曜日

2009年九州アート回顧 新美術新聞 2009.11.23

ネット公開2010.01.06
新美術新聞に掲載された元原稿です。


2009年11月 新美術新聞 2009年12月11・21日合併号 7面
 2009年の九州アート状況を振り返る
 作り手の交流が新しい活動を作り出す

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原稿送付 2009.11.23

※写真クレジット
撮影:久保貴史 
(C)別府現代芸術フェスティバル2009実行委員会

作家名:マイケル・リン
作品タイトル:別府 04.11-06.14.09
会場:別府国際観光港関西汽船のりば2階

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新美術新聞 2009.11.23「2009年の九州アート状況を振り返る」
宮本 初音(アート・コーディネーター、ART BASE 88/西天神芸術センター 代表)

 2009年九州で注目を集めたのは、温泉で名高い大分県別府市でおこなわれた別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」(4/11-6/14)であった。美術作家・山出淳也が国際芸術祭を開催する目的でNPOを立ち上げ、数年がかりで実現にこぎつけた。レトロな市街地や湯けむりの温泉街など別府の特徴的な地域を会場に、現代美術・コンテンポラリーダンス・音楽ライブなどをおこない、会期中は延べ200人を超す芸術家が別府に集った。行政や企業と協働し、国際交流を進める活動力は、地方では稀なことである。今後3年ごとの大規模事業と毎年の小規模イベントが計画されている。
 福岡では、この秋、福岡市美術館開館30周年記念「コレクション/コネクション」展(8/8-9/27)、福岡アジア美術館開館10周年記念「第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009」展(9/5-11/23)という二大記念展が開催され、同時期に福岡県立美術館で「大原美術館コレクション展」(10/10-11/29)、北九州国際ビエンナーレ2009「移民」(10/10-11/15)もあり、例年以上の「アートラッシュ」となった。にも関わらず、街全体をフェスティバル化できなかったのは美術館運営の状況が響いており、極めて残念な事態である。政府の事業仕分けの状況から今後さらに深刻になりかねない。
 その一方で、各地で若手作家達を軸にした活動が目立ってきている。熊本の、再生された問屋街地区での「河原町アートの日」(毎月第2日曜開催)や、佐賀大学学生が商店街を舞台に企画した「呉福万博」(9/5-9/22)、長崎・波佐見町の陶器工場跡を使ったアートスペース「モンネポルト」などである。これらの活動に、前述の別府フェスに関わった若手作家らが絡んでおり、その波は九州内だけでなく全国的に連動しつつある。
 作り手の交流が新しい活動を作り出す、九州のアートは新しい局面を迎えようとしている。

第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009 レビュー 台湾「藝術家」誌 2009/9月

台湾の「美術手帖」と称される<藝術家>誌にFT4のレビューを書きました。
(2009.9.12)

藝術家(Artist)413号 October 2009
p.140-145
共再生−為明日創造
第四届福岡亞州藝術三年展

日本語の元原稿です、誌面では中国語になっています
※引用等は「藝術家」誌を参照ください(アジ美図書室にあると思います)
※写真はFT4実行委員会とモマ・コンテンポラリーに提供してもらいました
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「芸術家」誌 FT4レビュー 2000字 2009.09.12 宮本初音


「第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009」(以下FT4)が9月5日に開幕した。アジア21の国と地域から43組のアジア作家が集う、福岡最大規模の現代アートフェスティバルであり、今回は福岡アジア美術館の開館10周年記念展ともなっている。テーマは「共再生—明日をつくるために」。「共生」と「再生」を合わせてつくられた造語である。

前身となる福岡アジア美術展(5年ごとに開催)は、30年前に福岡市美術館で開館記念展としてスタートした。困難を伴いながらも丹念に進められた現地調査をもとに開催にこぎつけたが、当時は「アジアに現代アートはない」などといわれのない非難を受けたりもしたという(FT4図録より)。批判や予算減にも負けず、着実な現地調査とアジア美術の企画展を積み重ねたことが、アジア美術館の開館を導き、さらにそこから10年が経った。この間のアジアアートをめぐる状況の変化はめまぐるしいものがある。ことにアジア美術館が開館したのちの10年は、チャイナ系アートの躍進、それにともなうマーケットの拡大が著しい。すでにアジアのアートは現地で発掘してくるものではなく、次に高値で取引されるものを探り出し、世界のマーケットを牽引する時代に突入している。
しかしFT4は、そういったアートマーケットを意識した作品を慎重に意図的に避け、これからの成長が期待される新進作家と、ゆるぎない実力を示す国際作家に焦点をあてた作家選考をした。ふたを開けて見れば、アジア美術のスターが勢揃いした粒ぞろいの作品がひしめく展示会場となった。

まず、美術館に入る前から1Fのエントランスでジャン・リーロイ・ニュー (Jan Leeroy C. New) の作品が待ち受けている。会場に入れば、ホァン・ヨンピン(Huang Yon Pin)大きな蛇の骨が度肝を抜く。2008年北京オリンピック開会式のアートディレクションもおこなったツァイ・グォチャン(蔡國強 Cai Guo-Chiang)の水墨画的な大作は、じっくり見入る観客が多い。電灯を使ったヤオ・ジョンハン(姚仲涵 Yao Chung-han)のインスタレーションや、動きがユーモラスなポース&ラオ(Pors & Rao)の作品が人気を集めている。重いテーマを扱いながら、映像を交えた巧みな構成で惹きつけるのは、ヤスミン・コビール & ロニ・アフメッド(Yasmine Kabir & Ronni Ahmmed)のインスタレーション「葬儀」。創作漢字作品で知られるシュ・ビン(Xu Bing 徐冰)は、文字をモチーフに森を作り出すという新たなプロジェクトを展開し、世界各国でワークショップがおこなえるような教科書を作り出している。カフェに隣接した広いラウンジスペースでは、淺井裕介が会期に先んじて現地制作をおこない、泥絵の技法で大作を描いている。

館内各作品はどれも見応えがあるが、今回は館外でも作品展示が実施されている。ユニット「ポスト・ミュージアム」(Post Museum)は美術館と市内のギャラリーの2カ所を使った「無料マーケット」と題したプロジェクトを展開、スカイプでつなぎながらワークショップをおこなったりもしている。
美術館から徒歩5分程度のところにあるリノベーションアパート「冷泉荘」では館外の正式会場として、6組の作家が展示をおこなっている。中でも日中韓の作家ユニット「西京人」(小沢剛、チェン・シャオション(陳劭雄)、キムホンソク/ Xijing Men (Ozawa Tsuyoshi, Chen Shaoxiong, Gimhongsok))による、架空の「西京国」を巡る作品は若い世代に大きな支持を得たようだ。

今回のFT4は、もともと、美術館を出てまちのなかでもっと多くのプロジェクトが想定されていたようである。初日にリアン・セコン(Leang Seckon)が美術館正面の商店街でパレード「踊るマカラ in 福岡」をおこなったが、実際には館外イベントがさほど多いとは言い難い。
そんななか、FT4と合わせ市中のギャラリーで個展をおこない、伝統ある神社に自作の絵馬を奉納したマイケル・リンの多彩な活動は注目を集めた。(個展と絵馬奉納のコーディネートはモマ・コンテンポラリーによる)

福岡ではもともと他都市に比べ、公立の美術館と民間ギャラリーやNPOが連携する例が少なくなかったが、最近はやや機会が減じているようである。アーティストが新しい表現を探しているときに、さまざまな立場の人が関わりやすいのは福岡の都市規模の利点である。これを活用しないのは大変に惜しい。

FTは「福岡トリエンナーレ」と読む。しかしながら、地元では「アジトリ」と略されることが多い。つまり、アジアの作家がやってくる展覧会であって、地元を盛り上げるトリエンナーレである、という風には受け止められていない。今回は特に、10周年というメモリアルな回であるのに、福岡の地元作家が参加していないということも影響している。地元作家の現場とFT4の現場に温度差があることは否めない。
アジア美術を巡る同美術館の歴史的な積み重ね、現在のアジア各地とのネットワークを、地元作家がしっかりと受け止め、FT開催を含めこの土地のアートを考えてゆくこと。アート以外の地元活力を繋いで作品や展覧会を積み上げてゆくこと。実はそれが今回のテーマである「共に生き、再生する」ということに繋がってゆくのではないだろうか。

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福岡アジア美術館 開館10周年記念
第4回 福岡アジア美術トリエンナーレ 2009
共再生―明日をつくるために
LIVE and LET LIVE: Creators of Tomorrow

会期
2009年9月5日(土)~11月23日(月・祝)
水曜休館 ※ただし9月23日(水・祝)は開館し、翌24日(木)休館
福岡アジア美術館(主会場):午前10時~午後8時(入場は午後7時30分まで)
冷泉荘(別会場):午前12時~午後6時

会場
福岡アジア美術館全館、周辺地域

公式サイト
日本語 http://www.ft2009.org/jpn/index.html
英語 http://www.ft2009.org/en/index.html
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宮本初音 Miyamoto Hatsune
(ART BASE 88 主宰、ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局長)

2009年9月24日木曜日

ネットTAM リレーエッセイ57 2009年8月執筆

※現在ネットTAMで公開中です
http://www.nettam.jp/main/00home/column/57/


(LRで書いたものをベースに09年秋のアジトリに合わせてバージョンアップしたというところ。LRのもの=スペースや拠点にポイント、というより、プロジェクトや活動にポイントを置いて書きました)

2009年8月24日月曜日

TAM リレーコラム 090824

2009.11.24公開しました
引用や著作権はTAMに確認を願います

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タイトル:北部九州コンテンポラリーアートガイド 2009秋用 リンク集付き
執筆者:宮本初音(ART BASE 88 / 西天神芸術センター)
★赤は写真です

こんにちは。残暑お見舞い申し上げます。
昨年(2008年)のネットTAMのTAM SEEDに「西天神芸術センター」の野望を寄稿させていただいて、はや一年。本格的なセンターというにはまだまだですが、いくつかプロジェクトが始動しています。[なお、ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局も同じ場所でやっています。]


★01 紺屋2023入口、2009年8月撮影


さて、みなさん、この秋の福岡は大規模企画展が目白押し、ちょっとしたアートラッシュになっています。ということで、北部九州へお越しの方へ、ガイドがわりにアートスポットやプロジェクトをご紹介します。

既に8月から開催中の福岡市美術館開館30周年記念展「コレクション/コネクション」展(- 9/23)では、館外の関連事業もあっています。(折元立身による「パン人間」は17年ぶりに福岡で見ることができ、当時関わっていたものとして感無量。)


★02・03 パン人間 折元立身 (福岡市美術館「コレクション/コネクション」展関連事業) 2009/8/22 福岡市天神他にて
★04 パン人間 折元立身(ミュージアム・シティ・天神 ‘92) 1992年[写真:ミュージアム・シティ・プロジェクト提供]


そして福岡で今年最大のアートイベント「第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009」(以下FT4)が9月からスタートします(9/5 – 11/23)。こちらも開館10周年というメモリアル展。アジア21ヶ国の国と地域、43組の錚々たるアーティストが参加します。


★05 淺井裕介 公開制作写真 (福岡アジア美術館) 2009年8月撮影


10月には「北九州国際ビエンナーレ」も始まります(10/10 - 11/15)。2回目となる今回は、門司港と小倉を会場に、<移民>をテーマにした映像系作品が多い企画になりそうです。テーマを掘り下げるシンポジウムや上映会は既に動き出しています。
同じく北九州地区で、NPOが運営する「街じゅうアート2009」も10/10 – 30に開催。

こういった大型企画に合わせ、福岡の各所で力の入ったアートイベントがおこなわれます。

天神の福岡県立美術館では10/10 – 11/29と「大原美術館コレクション展 名画に恋して」を開催、FT4に参加しているハツシバの別の作品がやってくる予定です。

三菱地所アルティアムではマイケル・リンが個展(9/5 - 10/11)。マイケルもまたFT4に参加し、さらに太宰府天満宮へ絵馬を奉納するというイベントを予定しています(9/6)。

この絵馬奉納のコーディネートをしているモマ・コンテンポラリーでは、「カンガルー日和」と題し、動物をテーマにした豪華作家陣によるグループ展を開催(9/4 - 10/17)。

いっぽうで、植物をテーマにした企画「ueki福岡・」は、沖縄の石垣克子さんを中心に横浜や福岡の作家が参加して「紺屋2023」のkonya galleryと ART BASE 88で開催します(9/18 - 27)。

博多湾に浮かぶ能古島では、福岡の実力派作家によるグループ展「NOKO PROJECT」が9/27まで開催中。

元気が良い地元若手の活動を観ようと思ったら、アジ美の近くの「art space tetra」や、薬院の「IAF SHOP*」がオススメ。
また天神の老舗「アートスペース貘」「ギャラリーとわーる」、博多駅近く「ヤマネアートラボ」も、この期間ならではの自信企画が目白押しです。
近郊では、久留米の元酒蔵「アートスペース千代福」や、朝倉市の元小学校「共星の里」も要チェック(風倉匠の遺作展が9/23まで開催中)。


そんな福岡の最近の特徴といえば、作家主導のレジデンスが増えている、という点でしょうか。
アトリエアパートにレジデンスを組み込んだ「旧大賀APスタジオ」(福岡市南区)や、定期的にベルリンから作家を招聘している「Studio Kura」(二丈町)の動向は注目です。
これとは別に、先月7月にスウェーデン作家と福岡作家が交流する「ノース サウス イースト ウエスト」というプロジェクトも始動、今後も世界中でこの活動が続くとのことです。
これら、いずれもそれぞれ作家が自主的に動いているのがいかにも福岡らしいところ。


★06 Studio Kura


このほか、すっかり定着したコンテンポラリーダンス公演「踊りに行くぜ」が10/10、アジアのユニークな映画がまとめて観られる「第19回アジアフォーカス・福岡国際映画祭」が9/18 — 27に開催され、正に芸術ザンマイの秋となっています。

本当にまだまだたくさんあるのですが、いまタウン誌やウェブなどで「コンテンポラリーアート」情報は、ほとんど見られなくなってしまいました。
先に書いたように、福岡のコンテンポラリーアートは、アート系NPOや行政主導ではなく、アーティスト自身が場をつくり、企画を作っていく傾向がますます強くなっています。ですから、情報がまとまって見えにくくなってしまうのです。


実は今回、このアートラッシュ期に何もないのはありえない!、ということで、西天神芸術センターを拠点に有志が集い、Fukuoka Art Tipsというグループを立ち上げ、マップとウェブをつくることになった次第です。
印刷物「福岡コンテンポラリーアートマップ2009」は、9月発行予定。これは地元アート関係者らの定額給付金による支援を受けて、制作しています。また、ウェブサイト「ART MANIA FUKUOKA」はブログとtwitterで情報を発信中です。(→「おすすめ!」情報参照)

このマップ、いずれは定期的に福岡のアート情報、レビュー、マップが載った和英マガジンとして発行し、国内外の主要スペースへ発送してゆきたいという野望を持っております。


さて、では近県はどうでしょう。福岡からJRや高速バスなどで1〜2時間で行ける大分、佐賀、熊本、長崎の状況をお伝えします。


大分県の別府市は、みなさんご存じのように今春「別府現代芸術フェスティバル2009 混浴温泉世界」を開催し、たいへん話題になりました。アートスペースとして常設している場所はないながらも、リノベーション施設「platform」を使ったアートプロジェクトや、若手作家が集った古アパートでの企画展が計画されています。コンヨク会期中毎週土曜にやっていた別府タワーでの「タワーナイト」というクラブイベントは、こんごも月に一度開催してゆくそうです。中心となるNPO法人 BEPPU PROJECTでは三年後にまた大型フェスティバルを開催したい、として着々とプランを構想中。動向に注目です。


★07・08 別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」
マイケル・リン(別府国際観光港)
ホセイン・ゴルバ(鉄輪、ひょうたん温泉裏)


その別府の隣まち、湯布院では「ゆふいん駅アートホール」が毎月好企画を開催していて、アートセンター的な場となっています。
また、金鱗湖に近い「gallery sow」では九州の若手作家個展が頻繁に開催されています。


2011年に九州新幹線の開通で博多と新たに繋がる熊本。
この地域のコンテンポラリーアート情報発信は、もちろん熊本市現代美術館(CAMK)が主軸となっていますが、最近、街の中心部に近い河原町商店街の活動「河原町文化市場」が話題になっています。毎月第2日曜に「アートの日」なるイベントを開催し、パフォーマンスや展示、販売をおこなっています。元は繊維問屋街という古い看板や路地、アーケードの風情が何ともそそられます。
前回のアートの日(2009/8/9)には、CAMKと連動したイベントを実施して、たいへん賑わいました。地元アーティストやギャラリーの活動が、公立文化施設と連動することでますますパワーアップしてゆきそうな気配です。


★09・10 河原町文化市場 アートの日 2009/8/9
大巻伸嗣パフォーマンス、市場の様子


佐賀では、東脊振ICから近い「AMP」が気を吐いています。元はお茶の倉庫だった場所を改装し、スタジオやカフェ、アートスペースとして再生。いわゆるゴリゴリのコンテンポラリーアートに偏らないアーティストの自然な発案によるイベントが各種おこなわれています。

AMPから車で数十分、佐賀市内の商店街では9/5 - 22「呉福万博」が予定されています。数年にわたり佐賀および各地でプロジェクトを積み重ねてきたこのチームは、いま伸び盛り。まちにどんなアートを仕掛けるのか、ぜひ観てみたいところです。


長崎では、波佐見町の旧陶器工場跡を再生したアートスペース「モンネ・ポルト」が注目です。波佐見は福岡から車で1時間半程度の距離にある、陶器のまち。ここ土地に伝わる捕鯨に関連したトークや、アフリカのアーティストを招いたり、かなりとんがったイベントを続け、新しい風を起こしています。

★11 monne porte外観


こうやって並べてみると、当たり前のことですが、やっぱり始まりはひとりのアーティスト、というプロジェクトやスペースが多いことに気づきます。「誰かのふとした発想」がどう拡大してゆくか、というところが面白いのかなあと思います。(その実現までの過程がプロかどうか、ということなのでしょう)

北部九州の名所旧跡火山と温泉の観光を組み込んだ、アート三昧ツアー、いかがでしょうか。西天神芸術センターでは 随時「福岡アート旅行代理店」として旅のご相談うけたまわっております。今後ともご贔屓に。

2009年8月
※写真は特記ないもの以外は筆者撮影

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【ART BASE 88および筆者の今後の予定】
2009/9/18 – 23 「ueki福岡・」 @ART BASE 88
2009年9〜11月 ART BASE 88でアートカフェ&ミニイベントを予定(不定期)
2009年10〜11月 BOOKOKA企画に参加(予定)
2009年11月頃 別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」報告会@福岡(予定)

【おすすめ!】
この秋の福岡のアート情報は、最新マップとウェブでどうぞ。
○「福岡コンテンポラリーマップ2009」は9月上旬発行。福岡市内主要アートスペースで配布予定。
○ウェブでは「ART MANIA FUKUOKA」ブログで情報公開。従来の「福岡コンテンポラリーアート掲示板」とも連動して、twitterで最新情報等をお知らせしています。
http://artmaniafukuoka.blogspot.com/
http://twitter.com/ArtManiaFukuoka
問い合わせ [artmaniafukuoka@gmail.com]

★12 ART MANIA FUKUOKA ロゴマーク (デザイン:h.f.g.)


【福岡コンテンポラリーアート リンク集】(順不同/2009年8月現在)

<福岡県>
福岡市美術館
www.fukuoka-art-museum.jp/
*開館30周年記念展「コレクション/コネクション」展 2009

福岡アジア美術館
http://faam.city.fukuoka.lg.jp/
*第4回福岡アジア美術トリエンナーレ2009 2009/9/5 - 11/23

福岡県立美術館
http://fpmahs1.fpart-unet.ocn.ne.jp/index2.html
*「大原美術館コレクション展 名画に恋して」 2009/10/10 - 11/29

art space tetra
http://www.as-tetra.info/

アートスペース貘
http://www.artspacebaku.net/

アートをたずねる月
http://fukuoka-artwalk.com/

IAF SHOP*
http://members.jcom.home.ne.jp/iaf_shop/

Asia Photographer's Gallery (APG)
http://www.apggallery.com/

ART BASE 88
http://travelers-project.info/306-08/

ギャラリーアートリエ(福岡市文化芸術振興財団)
http://www.ffac.or.jp/

ギャラリー風
http://www.gkaze.jp/

ギャラリーとわーる ※ギャラリー58ページ内
http://www.gallery-58.com/towa-ru.html

ギャラリーモリタ
http://www.g-morita.com/

konya gallery[紺屋2023]
http://konya2023.travelers-project.info/konya2023/

旧大賀APスタジオ
http://oapstudio.web.fc2.com/

共同アトリエ・3号倉庫
http://www.3gosoko.ne.jp/

TOKOPOLA[田川市、福岡市]
http://www.tokopola.com/

BOOKOKA
http://www.bookuoka.com/

ママとこどものアートじかん
http://www1.bbiq.jp/mom-art/

三菱地所アルティアム
http://artium.jp/

みるび 福岡アート&デザイン コミュニティ
http://milbi.jp/

モマ・コンテンポラリー
http://www.ne.jp/asahi/moma/contemporary/

ヤマネアートラボ
http://www.yamaneartlab.co.jp/

Studio Kura[二丈町]
http://www.studiokura.info/

九州国立博物館[太宰府]
http://www.kyuhaku.jp/

太宰府天満宮 ※アートプログラムは「宝物殿」「催し」などに掲載
http://www.dazaifutenmangu.or.jp/

石橋美術館[久留米]
http://www.ishibashi-museum.gr.jp/

アートスペース千代福[久留米]
http://chiyofuku.jpn.org/

共星の里 黒川INN美術館[朝倉]
http://blog.goo.ne.jp/kyouseinosato/

AIK(特定非営利活動法人アートインスティテュート北九州)
http://a-i-k.jp/
*第2回北九州国際ビエンナーレ「移民」 2009/10/10-11/29

NPO法人 創を考える会・北九州
http://www.sohkai.or.jp/
*「街じゅうアート2009」 2009/10/10 -10/30

GALLERY SOAP[小倉]
http://www5e.biglobe.ne.jp/~soap/

北九州市立美術館 本館[戸畑]・分館[小倉]
http://kmma.jp/

現代美術センター・CCA北九州[八幡]
http://www.cca-kitakyushu.org/jp/index.html

千草ホテル[八幡]
http://www.chigusa.co.jp/

八万湯プロジェクト[八幡]
http://ameblo.jp/hachimanyu/


<佐賀>
AMP[吉野ヶ里町]※Art is Magnanimous Plant (アートは寛大な植物である)
http://maglog.jp/amp-secibon/

呉福万博[佐賀市]
http://gofukubanpaku.web.fc2.com/

<熊本>
熊本市現代美術館
http://www.camk.or.jp/

河原町文化開発研究所
http://www.kawaramachi.net/


<大分>
アートプラザ[大分市]
http://www.art-plaza.jp/

NPO法人 BEPPU PROJECT[別府]
http://www.beppuproject.com/
*別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」
http://www.mixedbathingworld.com/

gallery sow, GALLERY BLUE BALLEN [湯布院]
http://web.mac.com/blueballen/iWeb/BLUEBALLEN/TOP.html

ゆふいん駅アートホール[湯布院]
http://www.yufuin.gr.jp/art/arttop.htm

「岡の里から」[竹田市]
http://okanosato.exblog.jp/


<長崎>
monne porte[波佐見]
http://monne-porte.jugem.jp/


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宮本 初音 090824現在
(ショートプロフィール)
1962年生まれ。1988年九州大学卒。福岡市在住。
アートコーディネーター、インディペンデントキュレーター。
「ART BASE 88」代表(西天神芸術センター)。ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局長。2009年4-6月の別府現代芸術フェスティバル2009「混浴温泉世界」では副事務局長。

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バトンメッセージ
モンネ・ポルト スズキジュンコさんへ

アーティストとしても頑張ってるけど、生まれ育った土地と全然違う場所でアートスペースを作り上げようとしているスズキジュンコさん。そのパワフルさにいつも惚れ惚れしているとともに、従来のアートマネジメントとはひとあじ違う「アーティスト」的手法の行く末に、興味津々です。

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関連写真flickr(非公開)12枚
http://www.flickr.com/photos/ohaz88/sets/72157622127285540/

2009年8月21日金曜日

TAM SEED: 2008年8月

<著作権注意>
Copyright NetTAM. All rights reserved.

掲載URL(ネットTAM:TAM SEED)
http://www.nettam.jp/main/02history/04seed/05/index.html

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第5回
福岡にアートセンターを
2001年冷泉藝館から2009年西天神芸術センターへ

ミュージアム・シティ・プロジェクト(MCP)事務局長/オハツ企画代表
宮本初音


 みなさん こんにちは。福岡のミュージアム・シティ・プロジェクト(MCP)のミヤモトです。今回は来年(2009年)春に始動をもくろんでいる「西天神芸術センター」(仮称)について、お知らせします。
 コンセプトの一部は7年前の2001年夏、福岡市博多区は旧冷泉小学校校舎でTAMチャレンジ編として開催した「冷泉藝館」と繋がっています。「冷泉藝館」では、図書室だったスペースをインフォメーションカフェ+ミーティングルーム+オフィスとして改装し、教室を使ってレクチャー、ワークショップ、展覧会などを行いました。


冷泉藝館 カフェ風景
 ミュージアム・シティ・プロジェクトは、1990年から10年にわたって、2年ごとに福岡のまちで現代美術のプロジェクトをおこなってきました。2000年以降は大きなイベントを開催するのではなく、街の機能をいかしたプロジェクトをやっていこうということでアートスクールやアートバス、アートホテルなどの提案と実践をおこなってきました。

『MCP1990-200X』記録集表紙(品切れ)


アートホテル・藤本由紀夫ルーム(ミュージアム・シティ・プロジェクト2002)
 アートセンター構想については90年代半ばから考案しており、ショッピングビルに併設・使われなくなった校舎を使う・既存の複数の拠点を繋ぐ・港湾や劇場などの新規建造物に組み込むなど、さまざまな提案をしてきました。が、残念ながら、公立(または公設民営)としては、実現に至っていません。

 2006年には、アートセンターを考える会なるものを、有志で開催しました。
※「福岡のアートセンターを考える会」ホームページ

 この会を通して私が考えたのは、アートセンターは誰のためのものか、ということでした。アートやアーティストは限られた業界のなかにいて、市民にはわかりづらい、そこをわかりやすく伝えるための施設としてのアートセンター、という考え方もあります。
 しかしながら、私は、アートを生み出す立場の人たちに意義のある場所こそがアートセンターなのではないか、市民に伝えるための場所というのは、既存の美術館博物館の機能を展開することで可能になるのではないか(民間と協働するという手法を交えれば)、と考えています。
 アートセンターは、アーティストが新しい表現をつくるための情報や場を提供するものであるべきではないか。アーティストが欲しいと思う場所でなければアートセンターを作る意味はないのではないか。…そう考え始めました。

 少し時を戻して2004年春、MCPは(財)福岡市文化芸術振興財団から「ギャラリーアートリエ」の企画運営を委託されました。商業施設(福岡アジア美術館と同じビル)のなかに、文化情報館アートリエなるものができており、この一角に地元の芸術を紹介するギャラリーを作ったというわけです。


ギャラリーアートリエ 2004年12月 「通りと広場」


ギャラリーアートリエ 2008年8月 牛島智子展「旅する青二才」
 MCP的にはここで「アートセンター」活動ができるかもしれない、と期待しました。企画展をおこなうかたわら、この場所がアートセンター機能をもつことを意識して会場を整備し、市民向けプログラムを考え、プチアートセンター企画もおこないました。
 そして、5年目。リニューアルを経たアートリエがアートセンターになることはないようです。将来的にどうなるのかは市の方針に委ねられており、わかりません。

 気がつけば、最初にアートセンター構想を提案してから10年を超えていました。
 もう、いいんじゃない。
 いいんじゃないかな。
 自分でアートセンターって言っても。

 公立の施設ができなければ、記録に残らない、そうなると人々の記憶に残らない。公立の施設としてのアートセンターがあったほうがいいと、思っています。でも、それを待つよりも、ほんとうに必要な機能が何であるのか、実際に動きながら試してみたい。

 もうひとつ。
 アートNPOという視点が始まった90年代後半からずっと抱いていた違和感をどう解決するか。アートと社会を、という掛け声の90年代を経て、はたして、アートは本当にチカラを得たのだろうか。

 そういった想いをもったプロジェクトが<西天神芸術センター(仮称)>です。

 福岡在住のひとであれば「西天神」と聞いたところで、プッと吹き出すはずです。そういう地名はありません。所在地住所は「大名」で、明らかに天神の西ではありますが、このエリアを「西天神」と呼ぶことはありません。ある種のマンション業者さんでなければ。

 活動内容(野望)を書いてみます。

アート情報の収集、紹介、発信。アートよろず相談。
アートプロジェクト、レクチャー、トーク、ワークショップ等の実施。
バザール系のイベント実施(アートフェア的視点)。
展覧会やスタジオ的な利用。
出版(将来構想として):アーティスト・カタログやアートテキストブック、マガジン。
 こういったことは、まあアートセンターとしては当たり前の機能です。キーワードは福岡、九州、アジア。そしてちょっと偏っていること。国内外のアーティスト個人の動きや自主的な活動(NPO含む)を重点的に。

第1松村ビル外観(2008年3月)


「紺屋2023」入り口(2008年8月)


アート・ベース88(西天神芸術センター・仮称・準備室)室内


「紺屋2023」1Fのカフェは2008年度週末のみ営業
 このスペースの重要なポイントは、入っている建物「紺屋2023」(松村第1ビル)は、リノベーションプロジェクトであるということです。
 ディレクター系雑居ビルというコンセプトのもと、異業種が入居(アート・写真・建築・グラフィックデザインという視覚芸術系だけでなく、IT・イベントプロモーター・芸術工学系大学のオフィスなど)します。またビル内にギャラリー、カフェ、レジデンスルームが設営されます。立地は福岡の中心地・天神から徒歩数分、周辺はオシャレ系商店街というバツグンの環境。これらの機能と、人のつながりをいかしてゆくことこそがミソになります。
※紺屋2023ブログ http://konya2023.jugem.jp/

 それから、運営方法もポイントになります。アートNPOの仕組みが、アートをサポートするのに本当に向いているのか。どういった運営手法が、現在の日本において一番「芸術をおもしろくする」ことに向いているのか。スタート時は、一種のアートプロジェクトという位置づけで始めますが、新しい仕組みを考え、実践しながら運営したいと思っています。

 …とまあ、こんな具合の2008年時点での「アートセンター構想」です。
このスペースに関する写真はコチラ(flickr)。写真は徐々に追加されてゆきます。
 2008年度中は、月に一度程度、アートレクチャーを実施するほか、随時プチイベントを開催します。情報はコチラのブログからどうぞ。

 同じ建物内(紺屋2023)で安く泊まれますから、全国から海外からぜひお越しください。ヨソにはない福岡ならではのレアな体験ができるよう、楽しい企画を考えてゆきます。


(2008年8月24日)

2009年8月20日木曜日

LR掲載 2008年9月執筆

<著作権注意>
LR掲載

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二十一世紀の九州アート
プロローグ 九州のアート拠点

宮本 初音
みやもと・はつね
Hatsune Miyamoto
ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局長、オハツ企画代表


 二〇一一年三月に九州新幹線(鹿児島ルート)が開通するらしい。その影響で福岡では博多駅再開発など大きなプロジェクトが計画されている。アート業界でもひさびさに「九州」というキーワードをよく聞くようになったのは、やはりその影響か。「九州派」は別格として、それ以後あまりポジティブな場面で使われてこなかった「九州」というコンセプトが、ここに来て新鮮な響きを持ってきつつある。

 ということで、二〇〇八年のいま、九州各地のアートはどうなっているのか、活動拠点となる民間アートスペースを手がかりに、福岡市在住者の視点として書いてみる。

 まず、地元・福岡の状況から。
 福岡市内には「福岡市美術館」、「福岡県立美術館」、「福岡アジア美術館」と三つの公立美術館がある。しかし三館とも<地元><若手作家><企画展>などをおこなうことは稀であり、新人作家が初めて挑む展覧会や挑発的な企画展などはやはり民間のアートスペースが中心となる。
 老舗では「アートスペース貘」が無休で個展を中心とした幅広い作家を扱う企画展をしており、安定感がある。商業施設イムズ内にある「三菱地所アルティアム」では近年公募をおこなっており、全国から優秀な作品が集う。いままで見たことがない若手が登場するスペースといえば、「IAF SHOP*」 、「art space tetra」[写真1]であろう。この二スペースは音楽や映像イベントも多く、若い世代の<たまりば>的要素も強い。毎年スタジオ利用作家を公募し匿名篤志家がサポートする「共同アトリエ3号倉庫」も、メンバー間の相互作用が面白い。
 新しいところでは築五十年のアパートを再生した期間限定プロジェクトの「冷泉荘」がある。スタジオやギャラリーなどアート系だけでなく、バーやアパレルなども混在した博多商人の街らしい異業種混合プロジェクトである。同じ主宰(トラベラーズ・プロジェクト)による再生ビルプロジェクトとして、大名地区に「紺屋 2023」が二〇〇九年春から本格始動する。ここは<未来型雑居ビル>というコンセプトのもと、ギャラリー・建築・グラフィックデザイン・IT・大学研究室などのオフィス、カフェ、レジデンスルームが入居する。(筆者が運営するアートスペース「ART BASE 88」(←後出では、カタカナになっています。固有名詞ですので、原稿内では統一したほうがいいかと思います。どちらがよろしいでしょうか?)も入居。※後述)

 これら福岡都市圏では、若手の動きは活発であるが、ほぼ全部が少数個人の善意で運営されており、活動自体は赤字であることが多い。また、優秀な作家がいたとしても、それをコンスタントに全国あるいは海外へつなぐ仕組みがない。福岡内でそれなりのアートコミュニティやメディアがあるために経済的になりたっていなくても活動を続けられる利点と欠点がある。このためどことなく活動がこじんまりして見える。観客やマーケットの問題、公的機関のサポートが薄いこと(事業以外へのサポートはほぼ見あたらない)のほか、適切な批評システムがない、芸術系大学がないことも要因としてあげられる。

 福岡近郊では太宰府界隈が注目エリアである。観光名所である太宰府天満宮と同宮に隣接する「九州国立博物館」は国内外観光客を中心に圧倒的な集客力をもっているが、注目すべきは「太宰府天満宮」が独自の現代アートプログラムを運営していることである。天満宮敷地内の宝物殿等を会場に、現代美術企画展やアーティストインレジデンスをおこなっている。また、太宰府市民有志による非営利組織「CAT(Community  Activate Team)」という<次世代型地域活性化団体>との連携により、太宰府の特色をいかしたワークショップやアートイベントが企画されている。

 福岡市の西、二丈町にある「Studio Kura」では年に一度欧州等からアーティストを招いてレジデンスをおこなっており、将来的には国際交流活動が計画されている。

 北九州エリアでは、小倉の「Gallery SOAP」が企画力、たまりば機能などで群を抜いている。八幡の「旧百三十銀行ギャラリー」も現代美術の企画が多い。同ギャラリーの運営をしているNPO「AIK」(アート・インスチチュート北九州 / Art Institute Kitakyushu)は、二〇〇七年に「北九州国際ビエンナーレ」を開催した。NPO「創を考える会・北九州」は、小倉等街中でのアートプロジェクト『街じゅうアートin北九州』を二〇〇七年より毎年実施している。八幡を拠点とし、国内外から有名作家を講師に招聘する「CCA北九州(現代美術センター・北九州 /CENTER FOR CONTEMPORARY ART KITAKYUSHU)」でも街に開かれたプログラムが増えてきた。北九州市立美術館の学芸員不在問題で揺れる地域ではあるが、発信者のモチベーションは高い。

 最近は筑豊エリアの田川市でも複数の新スペースが動いている。JR伊田駅近くの現代美術ギャラリー「to.ko.po.la」や、米蔵を改装した「コメグラ」などが福岡や北九州の作家と連動しながら独自企画展をおこなっている。

 筑後エリアでは、朝倉市の廃校を使ったアートセンター「共星の里・黒川INN美術館」が二〇〇八年より「黒川INNビエンナーレ」を始動させ、福岡の実力派作家が多数参加した。また、久留米郊外にある、酒蔵を再生した「アートスペース千代福」はスタジオ兼ギャラリーであり日韓交流にも熱心である。

 隣県・佐賀では佐賀大学文化教育学部の美術工芸課程が元気のよいアーティストを輩出し、福岡との連携も強い。
 二〇〇七年にオープンした吉野ヶ里町の「AMP」(Art is Magnanimous Plant/アートは寛大な植物である)[写真2]は茶葉倉庫を改装したスペースで、スタジオ・ギャラリー・カフェ機能を持つ。造形芸術にこだわらないイベント実施で若手作家が集まる場となっている。

 近年、九州内で最も目立つのは大分の動きである。
 特に二〇〇五年から活動している、別府市のNPO「BEPPU PROJECT」[写真3]の存在は重要である。『アサヒアートフェスティバル』や『全国アートNPOフォーラム』等に参加し、全国的な連携を強めるいっぽう、地元の観光産業や大学などと協働して、街の中をつかったアートイベントを多数開催している。こうやって芸術拠点を増やし、街全体をアートプロジェクト化していく計画を持つ。アーティスト主導プロジェクトながら、自治体や経済団体との連携も強くなっていて頼もしい。来春には大規模なプロジェクト、『別府現代芸術フェスティバル2009 混浴温泉世界』を予定している。

 その別府から車で約一時間の由布院は、観光客目当ての<ミュージアム>が多くあるなか、「由布院駅アートホール」がギャラリー機能だけでなくインフォメーション拠点として毎月アートマップを発行するなど、着実な活動を続けている。「gallery blue ballen」、「gallery sow」は福岡や大分などの作家による展覧会を多数おこなうが、最近『現代美術サポートプログラム』を始動させた。地域や企業とアートが連携する新しい仕組みに取り組んでいる。

 従来比較的保守的と思われていた鹿児島では、二〇〇七年の『SA・KURA・JIMAプロジェクト』を契機に新しい状況が発生している。九州外から移住した作家(浦田琴恵)がキーパーソンとなった同プロジェクトは、首都圏から若い作家を呼び寄せ、地元の作家や市民と交流し、プロジェクト終了後も新しい企画が相次いでいる。

 長崎県の波佐見でも同じような現象が起きている。やきもののまち・波佐見町にある「モンネポルト」[写真4]は、陶芸の作業場跡をリノベーションしたアートスペースで、同一敷地内に高感度カフェや雑貨店があり、一種のオシャレゾーンになっており、休日には(いったいどこから、というほど)多くの若者や家族連れで賑わう。波佐見焼が東京や京都のセレクトショップで取り扱われることも影響していると思われるが、ここでもアートスペースのキーパーソンは九州外出身の作家(スズキジュンコ)である。こういう「ヨソモノ」「ワカモノ」が地域に新しい文化芸術体験と独自の人間関係を持ち込み、その地域の特徴をいかしつつ、地元にはない視点でのアートプロジェクトが企画されている。

 熊本と宮崎は他県に比べると若い世代の活動がわかりづらい。桜島や波佐見の例を考えれば、居ないわけではなく、キーパーソンや拠点の情報が福岡へ伝わるきっかけがないということだろう。
 熊本は繁華街の商業施設内に「熊本市現代美術館」を持ち、地元若手作家がたくさん輩出されるかと思っていたが、思ったよりも動きが見えない。公立美術館が民間の動きをフォローすることが大切だと思わせられる。この点は最近変わりつつあるようにも思うが、九州新幹線の開通が、より空洞化を生むのではないかとの懸念もあるらしい。
 宮崎には、宮崎市や都城市に美術館があるほか、民間で「現代っ子センター」という一九七四年から子どもの美術教育に取り組んでいる組織(主宰・藤野忠利)があるが、地元若手作家の動きはなかなか見えてこない。

 これら各県の情報は、二〇〇七年秋に福岡県立美術館でおこなった『福岡アートフェア・シミュレーションα(略称fafa)』展をきっかけに集まったものをベースにした。同展は九州全県(沖縄含む)から五十を超えるアートスペースやプロジェクトが参加し、組織の紹介や推薦作家の作品展示をおこなった。九州内にこれだけ多くの草の根的アート活動があることをお互いに知らず、驚いたのであった。

 このように、いわゆる「地方」で、産業遺構をベースに若手作家などが活動する状況は、国内外で拡がっている。果たしてここに「九州」という言葉でまとめられるようなシーンが成立するだろうか?
 九州のなかで(現在)中心となっている(はずの)「福岡」では、アートジャンルのキーパーソンが地元以外で活動するという人材の空洞化が進行しており、大きなプロジェクトが行われにくくなってきている現状がある。

 そういう疑問と危機感から、福岡は九州やアジアの情報集積拠点としての役割を持つべきではないかと思い始めた。これが、「西天神芸術センター」(仮称)を思い立った動機のひとつである。筆者は、先述した「紺屋2023」[写真5]内の一室である「アート・ベース88」を拠点に、二〇〇九年より<アートプロジェクト>としてのアートセンター運営を計画している。
 情報収集発信、プロジェクトの実施、など、いわゆるアートセンターの役割はいろいろ想定できるが、最も重要なのはアーティストが「次にやってみたい活動」をサポートするという視点だと思う。制作場所、資金サポート、発表場所、素材や技法の助言、滞在や留学など、現場に即したサポートを導入し、「こういうことがやってみたかった」と作家がのびのびと制作できる環境を作れないか。そして「こんなん見たことない」というような表現が出てこないか。そういったきっかけになる、アートセンターをつくりたい。

 九州各地の動向は、意外に福岡のアート業界でも知られていないが、最初に述べたように「九州」というキーワードへの関心は高まっている。作家にとっても身近で新鮮な刺激は有効だろう。小さく見えてもひとつひとつの試行錯誤が、大きな流れになってゆく、そういう期待を持って各地の状況を見てゆこうと思う。

二〇〇八年九月三日

*写真キャプション
1「art space tetra」 入り口  2005年
2「AMP」外観 2007年
3「BEPPU PROJECT」platform1 2008年
4「モンネポルト」外観 2008年
5「紺屋2023」入り口 2008年

Equal原稿:2008年10-11月執筆

<著作権注意>

Equal 07(金沢のアート冊子)掲載
http://kanazawa-calendar.com/
※掲載時の原稿とは若干異なっている場合があります。文字の修正等

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<アートプロジェクトは経済発展の夢を見るか?>
宮本 初音
(ミュージアム・シティ・プロジェクト/オハツ企画)

 「アートプロジェクトって、田舎でやってるっていうイメージがあるんですけど」。
 3ヶ月ほどまえリサーチにやってきた、関東在住の学生さんがポロッと口にした言葉である。
 彼はまちなかでおこなうアートプロジェクトについて質問しようとしていた。アート系NPOに所属しており、けっして門外漢ではない。でも彼にとってのアートプロジェクトって<町おこし>なんだ…。さぁどうやって話を始めよう?

 世界一斉株安で大恐慌寸前、アソウ首相が総選挙より景気対策をという西暦2008年秋。でも、景気はもっと前から、何年にもわたって深刻だった。東京のひとたちが「地方」と呼ぶエリアでは。
 華やかりし駅前商店街はシャッター街になってしまった、そこにアートスペースをつくって、地元大学や美術系の学生とアーティスト(できれば海外)が共同制作し、近隣住民にワークショップ参加してもらう。最近のアートプロジェクトでこういった図式にはまるものは少なくない。そしてそういうプロジェクトは高齢化・過疎化しつつある地域を元気づける役割を、じゅうぶん果たしているだろう。
 10年ほどまえ、欧州の事例で「犯罪が激減した」「雇用が創出された」「ひとびとが生き甲斐をもった」「高齢者を敬うようになった」というアートプロジェクトの感動的な成果を聞いた。我が国でも現代美術やコンテンポラリーダンスなどを軸に、いまやこの「波」は全国各地で見ることが出来る。

(もっともプロデュースしているのは、たいてい東京界隈で仕事をしている人だったりするのである。地方美術館の学芸員だって東京の大学出身者が圧倒的だから今更ですけどね。この問題は後述)

 さて、しかし、困った。
 アートプロジェクトってそういうものだったんだっけ?
 ナニカの役に立つこと、だったのか??
 アーティストが、地域社会の問題点や特徴に着目して作品をつくっていく、いままでの手法によらない工夫をして、なんらかの問いかけや新しい視点を投げかけて行く、そういうのが「プロジェクト」(投影)だったのでは???
 うーん?

 私は九州の福岡に住んでいる。
 福岡は、ここ三十年ほど九州の商業的な中心で、週末になると九州一円からワカモノが買い物を目的に集まってくる。ライブや展覧会の数も九州内ではダントツである。つまり「地方」であるとともに「中央」でもある。
 この消費ゾーンの真っ中心=「天神」を会場に現代美術の国際展「ミュージアム・シティ・天神」(MCT)がスタートしたのが1990年。「ミュージアム・シティ・プロジェクト(MCP)」の主催により、このあと十年にわたり「都市のなかのアートプロジェクト」をビエンナーレ形式でおこなったのだった。行政(福岡市、文化庁等)や企業(地元商店街含む)の支援も受けた。会期中は美術館やギャラリーと連動してアート月間として盛り上がるような工夫もおこなったし、まちづくり団体や教育系NPOとも連携した。(注:MCPは非営利の実行委員会組織として、アーティスト・行政・民間の有志により構成。最近ではアートNPOとも呼ばれるが法人格はない。)

 繁華街(商業エリア)を会場にするということは、季節ごとにどんどん流れゆく広告の刺激的なイメージのなかでコンテンポラリーアートがどう成り立つのか、ということが問題になる。成功していたといえる作品は「まるでディスプレイのように」商品と違和感がないものであったり、「ありえない」というようなスペクタクル性が体感できるものだったように思う。
 しかし、繁華街での展示のミソは必ずしも視覚刺激のバトルではなくて、その背景にある都市のシステム、つまり利用する人々の活動に焦点をあてることであるはずだった。
(結果的にこれは、メインのビエンナーレ型プロジェクトが終了したのちに挑戦することになった。アートバス、アートスクール、アートホテル、アートセンター構想などの例である。)

 古い民家、美しい自然、廃墟になった産業遺構、ちょっと荒んだかつての歓楽街。こういったものを背景にするとコンテンポラリーアートは、けっこうゲンキづいて見える。福岡でも「博多部」という歴史ある地域を会場にしたときは、史実や伝統を糧に作られた作品もあり、住民の皆さんからの温かい協力や励ましはとても身に染みた。
 しかしこればかりをおこなってゆくのは企画としてNGなのではないか、思わせぶりな背景を使って実力以上に見せているだけではないか、そういう問は常にまとわりつく。
 
 あらためて最近の動向を眺めてみると、「田舎」、もとい、「地方」だけでなく、大都市圏でも昨今はビエンナーレ・トリエンナーレが花盛り、ついでにクリエイティブシティなどと称されて、自治体の施策ビジョンに描かれるなど新しい都市の未来像とまでなっているところが絶賛急増中である。
(もっとも、そのお手本は地道に何十年も活動を続けた欧州の「地方」都市だったりするのだが)

 大きな街にも現代では忘れられつつある歴史や伝統がある。それを取り上げる手法は、この手のアートプロジェクトものでは既に常套化していると言ってよい。
 コンテンポラリーアートは最初のうち、歴史モノ、伝統モノと、(一見)とても相性がよい。裏に隠されたコンセプトを苦労して読み取らなくてもいいので地元の関係者も喜ぶし、アート関係者にとっても新発見が多い。しかしアーティストの個性が明確なものは寧ろ少なくなっていないか? 単なる「調査」「研究」の発表とどこが違うのか? 作品制作の手法として、模倣を重ねているだけではないか?
 わたしたちは九州の、アジアの、ヨーロッパの、中南米の、いたるところのアートプロジェクトで「その土地の特徴を活かした」という、見覚えのある作品に出会うことができるだろう。

 「まち」とパートナーシップを繋ぐこと自体が問題なのではなく、アート側が状況に甘えていないか、行政側はあいかわらず「文化芸術はわからんのですが」といいながら利用しすぎていないか。功利主義という軸からアーティストは外へスピンしはじめるだろう。そのとき「まち」はアートに裏切られたと思うだろうか?
(ただしアーティストも、アートのためのアートになることを慎重に検討しなければ再び過去の轍)

 さて、アートプロジェクト10年説、というのを聞いたのは1990年代なかばごろだった。(誰が言い出したのか、忘れてしまったので出典は明記できない。)
 最初の3年は上り坂、目指すところへたどり着くために試行錯誤する。次の3(〜4)年はだいたい横ばい、最初に考えていたことに近いことが出来てきて充実してくる。そのあとの3年は下り坂、どうやって終結させるかを考え始める時期。

 アートプロジェクトに限らず、物事を成し遂げるときのスパンだという人もいる。また、美術史的に十年以上活気が続いた芸術運動が見あたらないという説もある。
 ともあれ、現実的に十年経つと、スタッフも十歳ふける。二十代なら三十代、四十代なら五十代。当たり前だがその間、人生は進行している。結婚、出産、就職、引っ越し、親の死、子どもの進学などなど。支援してくれていた役所や企業のひとも間違いなく異動になる(昇進・退職含む)。当初中学生だった観客なら、大学を卒業している。首謀者がどんなに頑張ろうとも同じモチベーションで継続できるわけはない。

 始めた頃の勢いは必ず失われる。しかし、それを予感しつつ、次の十年、あるいはその先を考えてゆくこと必要になってくる。ここで街の仕組みとの関係が重要になってくる。
 アートプロジェクトとして始まったものであっても、集客的に成功したり、コンセプトが明快なものは徐々にアーティストの手を離れ「代理店的な組織」がおこなうようになっていく。役所のなかに部署が新設されるところもある。
 抜け落ちてゆくのは、面倒な「お勉強」や地道なネットワーク作りである。消費が早い昨今はアーティストもアイドル的な人気が重視され、つぎつぎとスターを「発掘」せねばならない。「育成」といいながら、蕾のうちに手折るようなシステムが横行している。

 福岡の場合は、芸術系専門大学がないため(学部はある)、MCPでは90年代後半から、アートセンター構想や教育機関の提案や、イベント的にこれらのプロジェクトをおこなってみたが、恒常的な場所としてはいまだ実現できていない。これによりアイカワラズこの地では「批評」の不在、新人作家の実力アップが不十分、アート系人材の流出などが問題点となっている。
 先に書いた、「東京発」の企画でなく、その土地で発する企画力をつけるために、恒常的な教育システムの整備(継続運営)は重要なのである。

 私は「まちと関わるアートプロジェクト」とは「まちの夢」のようなものだろうと考えている。アーティストのワケワカラン話に、役所の人も企業の人も新聞社さんも商店街の会長さんも食堂のおばさまもタクシーの運転手さんも、つまり遠く近くプロジェクトに関わるひとたちが、それぞれ勝手にそのプロジェクトへ幻想、自分の夢を投げかける。それが機能している間、アートプロジェクトは進んでゆくだろう。
 それぞれの夢は、やがて違う方向へ走り出す。そしてその先の夢は・・・?

 アーティストの本当の仕事、アートプロジェクトが醸しだす未来というのは、そういった先の先へ夢を描くのが仕事ではないのか、と思う。「ナニカ」の先のその先へ。言葉にならない、成果にならない、ナニカの兆しをとらえること。
 冒頭の学生さんへは、アートプロジェクトは「田舎」でおこなわれているのでなく、夢を失いかけたところへ新しい夢をしかける作業なのだと説明すればよかったのか。

 そして、このテキストを書いている間に、わたしは別府で2009年4〜6月におこなわれる「別府現代芸術フェスティバル2009 混浴温泉世界」の事務局仕事を正式に引き受けることになった。
 中心市街地活性化と地域の歴史や特性を活かし、地元行政や企業、大学と深く結びついたフェスティバル。首謀者は同県出身者のアーティスト山出淳也(NPO法人BEPPU PROJECT)であり、総合ディレクターは芹沢高志(P3 art and environment)。現代美術をメインに据え、海外から9組の作家を招聘し現地滞在制作をおこなう。コンテンポラリーダンスの「踊りに行くぜ!」も主要プログラムであり、このほか映像や音楽イベントもてんこもり。大分県初の国際芸術祭と銘打たれている。
 国内外のアートフェスティバルの狂乱が反省され、アートバブルも崩壊しつつある現状、BEPPUでどんな夢をつむぐのか。ここでのプロジェクトは、「祭りのあと」を考えながら進行している。そして、運営サイドや住民の意図を超え、参加アーティストや観客たちが、その先を示してくれるに違いない。「祭り」にはそういうチカラがある。

 横浜で、金沢で、広島で…。今年もたくさんのアートとまちの夢がつむがれている。問題点があったなら、それもまたアートの糧になってゆくだろう。
 アーティストの描く夢は、長くシツコク果てしない。

2008年10月

*写真
1 母里聖徳 作品(1990年)警固公園・福岡
2 池水慶一 作品(1994年)姪浜人工海浜・福岡
3 冷泉藝館 3daysアートセンター(2001年)旧冷泉小学校・福岡
4 天神芸術学校(2002年)イムズ・福岡
5 鉄輪地区の風景(2006年)別府
6 platform01外観(2008年)ソルパセオ銀座通り・別府

*参考文献
「ミュージアム・シティ・プロジェクト1990-200X」(山野真悟、黒田雷児、宮本初音)2003年、ミュージアム・シティ・プロジェクト出版部 ※品切

「アート・デザイン・クロッシングvol.2 散乱する展示たち」(古賀徹 編著。佐々木喜美代、後小路雅弘、宮本初音、吉田修一)2006年、九州大学出版会

*プロフィール
みやもと・はつね。
アートコーディネーター、インディペンデントキュレーター。
1962年生まれ。福岡市在住。主に現代美術プロジェクトのプロデュースやコーディネートをおこなう。
2008年10月現在、ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局長、「ギャラリーアートリエ」企画ディレクター(福岡市文化芸術振興財団より委託)、オハツ企画 代表(アート・アパート88代表、アート・ベース88代表)「別府現代芸術フェスティバル2009 混浴温泉世界」副事務局長。このほか2009年は「西天神芸術センター」を計画中。

2008年10月
[文中敬称略]

わ 090811

2009.11.24公開


財団法人 福岡市文化芸術振興財団機関誌「わ」
Vol.43 Autumn 2009
紺屋2023連載

※最新号情報
http://www.ffac.or.jp/magazine/index.html

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わ原稿 #306 ART BASE 88 宮本初音

[ベネチアの、路地]
人サイズの路を歩く。
自動車サイズではない幅、曲がったその先に何が隠れているのかわからない、行き先を不安に思いながら歩く、路地。例えば那覇の壺屋、別府の鉄輪、東京の神楽坂。
でもやはりベネチアは別格だ。10年訪れていなくても、頻りに夢に現れては誘い続ける、石畳パサージュの魔力。
まちとアート、というけれど、大きな広場や建造物ではなく、こういった闇の気配を含む処から想像力、創造する源泉は発してくる。
こんどはどの路地で迷おうか。

このブログは原稿用です

非公開の下書き用

公開しないところに原稿のモトが。